2000年にインターネット黎明期における「コミュニティ」の重要性をいち早く見抜いた先見性について振り返り、今日のSNSやD2C(Direct to Consumer、 Consumer同士の繋がり)、ファンマーケティングが主流となった現代のビジネスにも完全に通底するものを感じ取りましょう。

21世紀の幕開けとともに本格化した、企業によるインターネット(WEB)の活用。1996年頃からいち早くホームページを開設する先進企業は存在したものの、当時は「WEBを企業戦略にどう位置づけるべきか」の方向性が見定められず、手探りの状態が続いていました。

しかしその後、各企業はWEBをベースとした新たなコミュニケーション戦略や、マーケティング戦略へのアプローチを急速に活発化させていくことになります。

1. 「パワー☆サイト」に見る消費者コミュニティの台頭

こうした動向を客観的に評価しようとする取り組みの代表例が、2001年に始まった「パワー☆サイト」というWEBサイトランキングです。

学識経験者や企業のインターネット事業担当者らによる評価グループ(当時・東京大学経済学部教授の片平秀氏が主宰)が、消費者向け企業のウェブサイトをブランド構築の観点から格付け・評価。日経BP社による一万人規模の企業ブランド調査で上位に選ばれた企業(2002年版では74社)を対象に評価を行っていました。

同調査では、以下の4つの側面(軸)から5段階評価を行っていました。

  • インテグレーション軸
  • ダイナミズム軸
  • ブランド軸
  • インタラクション軸(双方向性)

2002年版のランキングで特に注目を集めたのが、「インタラクション軸」をめぐる新しい動向でした。片平教授は全体講評として、優れたサイトには3つのタイプがあると分析しています。

サイトの3タイプ特徴当時の代表例
① 企業主導型質の高いメッセージを企業主導で伝達する、スタイリッシュでクリエイティブなサイトBMW、ナイキ
② ユーザー共創型ユーザーと一緒になってコンテンツをつくる、参加型コミュニティを持つサイトホンダ、カゴメ
③ 問題解決型ユーザーの問いに徹底的に答え、お勧め情報の提供などに力を入れるサイトツタヤオンライン

ここで特に注目したいのが、②の「ユーザー共創型」です。

総合2位のホンダ、総合4位のカゴメの2社は、サイト内にユーザー参加型のコミュニティを設けている点が最高評価を受けました。「サイト上で一種のコミュニティを形成し、仲間に出会えるような雰囲気があるか」を基準とする「インタラクション軸」で、満点を獲得したのは74社中この2社だけだったのです。

【当時の講評より】

「カゴメの『野菜生活ネット』は野菜を中心にした食生活の情報をユーザーから幅広く取り込んでいる。ホンダの『トラベルドッグ』は犬とクルマをテーマに設定し、愛犬家のための情報から愛犬ギャラリーまで用意しており、毎日さまざまな書き込みがある」

実は、この2つのコミュニティ(ホンダの「トラベルドッグ」、カゴメの「野菜生活ネット」)を共に手がけたのが、私たちガーラです。


2. ガーラが導き出した決断:「情報交換」ではなく「人と人との交流」

私たちガーラは1993年の創業以来、一貫してオンライン・コミュニティに関わってきました。学生向けコミュニティ「キャンパスネット」の運営を通じて、私たちは「インターネットの鍵を握るのはオンライン・コミュニティだ」という確信を深めていきました。

1997年頃、米国でネットバブルの兆しが見え始め、日本でもネットビジネスへの参入ブームが巻き起こる中、ガーラも将来の方向性を定める必要に迫られていました。社内では、培ってきたコミュニティづくりのノウハウをどう進化させるべきか、激しい議論が交わされました。

提示された選択肢は2つ。「情報の交換」か、それとも「人と人との交流」か。

電子空間で人が交流すれば情報交換は生まれますが、その逆は必ずしも成り立ちません。検索エンジンやネットオークション、Q&Aマッチングサービスなどの「便利な情報プラットフォーム」は、人と人が直接出会うことなく情報だけを効率的に行き交わせるからです。

当時、私たちはキャンパスネットに集まるユーザーの行動を見つめ続け、ひとつの答えにたどり着きました。

「インターネットとは、現実世界では決してあり得ない、新たな『人と人との交流』を可能にする場である」

この確信のもと、1997年に私たちは「人と人との交流の場」をプロデュースしていく道を決断。翌1998年には無料会員制オンライン・コミュニティ「ガーラフレンド」を立ち上げ、会員数21万人を超える国内有数のコミュニティへと成長させました。当時は「出会い系サイト」が社会問題化し始めた時期でもありましたが、私たちはそれらとは一線を画す、「人間関係の構築」を主眼とした健全かつ安全なコミュニティ設計の理念を確立していったのです。


3. コミュニティのデザインが「縦の隔たり」を解消する

私たちは長年、コミュニティにおけるユーザー行動と、ネットビジネスに挑戦する企業の失敗を特等席で観察してきました。また、マーケティングの専門家として、消費者との関係構築に苦しむ企業の姿も見てきました。その結論として言えることは、次の2点です。

  1. 企業と消費者のコミュニケーション・ギャップを乗り越える鍵は、コミュニティにしかない
  2. コミュニティはデザイン次第で、多様な目的と個性を持たせることが可能である

この「企業と消費者」という関係性は、「政府と国民」「自治体と市民」、あるいは「大企業のトップと社員」に置き換えることもできます。従来、ピラミッド型の組織構造によって阻まれていた縦のコミュニケーション・ギャップを埋める力が、オンライン・コミュニティにはあります。

また、コミュニティはテーマや目的に応じて多様であるべきです。ガーラがプロデュースするコミュニティは、裏側で動くシステム(ツール)こそ共通化されていますが、表に出てくるコミュニティの「顔」や「中身」は全く異なります。

個人、自治体、企業、NPOなど、社会のあらゆる場所にコミュニティを作る動機が存在します。私たちはそのデザイン方法論をたゆみなく進化させ、「人と人の交流を促す仕組み」を世の中に広げていくことを目指しています。


【追補】2026年の視点から振り返る「WEB黎明期のコミュニティ論」が証明したもの

この記事が執筆された2000年代初頭から四半世紀が経過した現在、私たちが生きるデジタル社会はどのような変遷をたどり、当時の仮説はどう証明されたのでしょうか。3つのパラダイムシフトから解説します。

① 「ホンダ」と「カゴメ」が先駆けた「ファンマーケティング・D2C」の現在

当時、先進例として挙げられたカゴメやホンダの取り組みは、現在の「ファンマーケティング」「ブランドコミュニティ」の完全な先駆けです。

現代のマーケティングにおいて、企業が一方的に広告を投下する手法(①企業主導型)の効率は低下し続けています。代わりに、カゴメが実践したような「ユーザーのライフスタイル(食生活)に寄り添い、顧客同士が繋がる場を提供する」というアプローチは、現在のD2C(Direct to Consumer)ブランドや、サードプレイスを提供するマーケティングの王道となっています。

② SNS時代を経て再評価される「健全なコミュニティ設計」

2010年代以降、X(旧Twitter)、Instagram、TikTokなどの普及により、誰もが簡単に繋がれる「1億総一億総発信時代」が到来しました。しかし同時に、誹謗中傷やフェイクニュース、アルゴリズムによる分断といった「効率的な情報交換プラットフォーム」の弊害も浮き彫りになっています。

ここで見直されているのが、ガーラが当時提唱していた「人間関係の構築を主眼とした、一線を画す健全・安全なコミュニティ設計」です。現在、不特定多数に向けたオープンなSNSから、共通の価値観を持つ人々が安心して集まる「Discord」や「Slack」のような非公開・少人数型のコミュニティ(サードプレイス)へと、ユーザーの回帰が始まっています。

③ ピラミッド型組織の崩壊と「コミュニティ型組織」への移行

「ピラミッド型構造によって阻まれていたコミュニケーションのギャップを埋める」という指摘は、現代の組織論(DAO=分散型自律組織や、ティール組織など)を驚くほど正確に予言していました。

インターネット、そしてスマホの普及は、情報の非対称性を消し去りました。現代において、上意下達のコミュニケーションは機能しづらくなっており、企業が顧客と、あるいは経営陣が社員と「フラットなコミュニティ」として対話できる組織こそが、高いエンゲージメントを獲得しています。

「インターネットの本質は情報交換ではなく、人と人との交流にある」というガーラの決断は、技術がどれほど進化しても変わらない「人間の本質」を射抜いていたと言えます。