ピーター・ドラッカーによれば、イノベーションとは「事業体の経済的、社会的能力に関して、目的意識を持って集中的に変化をもたらすための努力」である。イノベーションは変革を引き起こす要因であり、すべての経営者にとって重要なツールであるという位置づけは正しい。だがこの言葉には、イノベーションが競争のなかで生き残るために不可欠な要素であることは表されていない。

一方、ジレットの元会長兼CEOジェイムズ・キルツは、イノベーションについてこうまとめている。

「我々は二年前、簡潔なビジョンを作った。イノベーションによって、消費者価値の提供と顧客主導体制を競合よりも迅速かつより完壁に確立して、全体的なブランド価値を高めていくというものだ。また、リスクテイクを奨励する必要がある。たとえば我が社では、成功の反対は失敗ではなく惰性であることを常に忘れるな、を社訓にしている」。

競争の激しい環境で成長するにはイノベーションが欠かせない。イノベーションを進めていないと、企業は失速し、競合に支配権を奪われ、やがて破滅に向かうことになる。

1979年、コンピュサーブは早くもオンラインサービスを開始し、電子メール、オンライン・バンキング、オンライン・ショッピングなど多種多様なサービスを展開した。90年までには、オンラインサービス市場は約100万人のユーザーを抱えるまでに成長していた。

コンピュサーブは誰もが認める業界のリーダーとなっていた。ところが90年代の終わりにはAOLに市場シェアを奪われ、98年には買収されてしまった。コンピュサーブはイノベーションでいつたんは先頭に立つたが、それに安住しているうちにつまずき、結局、よリイノベーティブな企業にその王座を奪われたのである。これと似たような話は、航空業界をはじめ投資銀行、コンピュータ、携帯情報端末(PDA)など、あらゆる業界で見られる。

コスト削減やリエンジエアリングだけでは、企業は成長できない。また商品を多様化しても売上増にはなかなか結びつかない。こうした従来型のアプローチでうまく売上が伸びない場合は、イノベーションを取り入れるほかない。売上増加の難しさを示している。市場の拡大、吸収合併や買収の見込みに、現在開発中の新商品で見込まれる売上増のすべてを合わせても、日標の達成に必要な売上増には届かない。

この図は、ある大手エレクトロニクス関連企業の実例である。この企業は売上を伸ばそうと、既存製品の販売拡大や合併買収を試みたが、十分な成果は得られなかった。日標と実際の差を埋めるには、イノベーションが必要なのである。

イノベーションで得られる具体的な成果は、企業のニーズや能力によって異なるが、可能性としては、売上の増加、より確実な利益確保、顧客との関係改善、社員のモチベーションの向上、提携による業績の向上、競争優位の拡大などが考えられる。

成果は取り組み方で決まる

あなたの会社が今そのイノベーションを生み出しているのは、そうなるべくしてなった結果である。これは戯言ではない。イノベーション戦略や組織、プロセス、企業文化、評価指標、報奨は、どこの企業も独自のものを持っているため、イノベーションの成果も各社で異なってくる。たとえば、Appleが開発するものはDELLやIBMでは生まれないだろうし、同様にゼネラルモーターズ(GM)やFordは、トヨタの車を真似ることはできても、自動車業界を圧倒した独自のリーン生産方式やハイブリッド車の最新技術など、トヨタが生んだ根幹部分のイノベーションを考え出すことはできなかつた。

イノベーションの基本的な部分はすべて同じだが、企業文化や特殊な知識、独自の報奨制度など、企業はそれぞれの特色を反映した独自のイノベーションを生み出していく。イノベーティブでない企業は、意識的にせよただの惰性にせよ、自らの選択でそうなっているのだ。イノベーションの成果を変えるには、経営陣の積極的な取り組みが必要である。

ともすると見失われがちだが、基本原則は「イノベーションの結果は、やり方次第」だ。イノベーションの結果は宝くじとは違う。運の問題ではない。また、たとえばコンセントのように、プラグを差し込むだけで望む結果が出てくるという単純なものでもない。

イノベーションには、リーダーシップ、戦略、プロセス、資源、評価指標、測定、インセンティブと報奨など、さまざまな要素がある。最終的なイノベーションの質と量には、こうした要素そのものと、これらをどう組織構造や企業文化に組み入れるかが大きく影響する。したがって、企業のイノベーションの取り組み方を見ずに、イノベーションの強化、改善を探っても、あまり意味がない。

では、イノベーションを成功に導く一番の要因は何だろう? 繁栄する企業と、利益は下がり新商品は鳴かず飛ばず、市場シェアも失って衰退していく企業との差は何だろうか?